ベクトル解析完全講座 第8回 発散

基礎

ベクトル解析完全講座

第8回 / 全12回

第1回へ

第 7 回では、各点にベクトルを対応させる関数

F(x,y),F(x,y,z)\mathbf{F}(x,y),\quad \mathbf{F}(x,y,z)

ベクトル場 と呼ぶことを見ました。

ベクトル場では、各点に

  • どの向きか
  • どれくらい強いか

という情報が入っていました。

今回はそこから一歩進んで、

その点の近くで流れが湧き出しているか、吸い込まれているか

を調べる量を考えます。

これが 発散 です。

1. 今回学ぶこと

この記事では、次の内容を扱います。

  • divF=F\operatorname{div}\mathbf{F}=\nabla\cdot\mathbf{F}
  • 発散の意味
  • 湧き出しと吸い込み
  • 成分表示

ゴールは

発散を、ベクトル場の局所的な広がり具合として読めるようになること

です。

2. 直感的なイメージ

流れ場を考えます。

ある点の近くで、流れが四方へ広がるように出ていくなら、その点は「湧き出し口」のように見えます。

逆に、まわりから流れが集まって吸い込まれていくなら、その点は「吸い込み口」のように見えます。

発散は、このような

  • 外へ広がる傾向
  • 内へ集まる傾向

を数値で表すものです。

ざっくり言えば、

  • 発散が正: 湧き出している
  • 発散が負: 吸い込まれている
  • 発散が 0: 出入りがつり合っている

と読めます。

3. 基本事項

3.1 発散とは何か

ベクトル場

F\mathbf{F}

に対して、その発散を

divF\operatorname{div}\mathbf{F}

または

F\nabla\cdot\mathbf{F}

と書きます。

ここで

F\nabla\cdot\mathbf{F}

の「\cdot」は内積に似た記号ですが、今は

ナブラとベクトル場を組み合わせて発散を作る記号

だと思えば十分です。

ただし、もう少し踏み込むと、ここでの \nabla

=(xy)\nabla= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y} \end{pmatrix}

あるいは 3 次元では

=(xyz)\nabla= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial z} \end{pmatrix}

という ベクトル演算子 だと考えることができます。

この見方をすると、

F\nabla\cdot\mathbf{F}

の「\cdot」は本当に内積と同じ形だと思ってよく、たとえば 2 次元なら

F=(xy)(PQ)=Px+Qy\nabla\cdot\mathbf{F} = \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y} \end{pmatrix} \cdot \begin{pmatrix} P\\[0.35em] Q \end{pmatrix} = \frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y}

となります。

つまり発散は、「ベクトル演算子 \nabla とベクトル場 F\mathbf{F} の内積」として読むと自然です。

発散の結果は、ベクトルではなく 実数 です。

つまり発散は、ベクトル場から

  • 向きの情報を直接返すのではなく
  • その点の近くでどれだけ外へ出るか・内へ入るか

を 1 つの数として返します。

3.2 2 次元での成分表示

2 次元のベクトル場

F(x,y)=(P(x,y)Q(x,y))\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} P(x,y)\\[0.35em] Q(x,y) \end{pmatrix}

に対して、発散は

divF=Px+Qy\operatorname{div}\mathbf{F} = \frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y}

で定義されます。

つまり、

  • xx 方向成分 PPxx 方向にどう変化するか
  • yy 方向成分 QQyy 方向にどう変化するか

を足し合わせたものです。

ここで大事なのは、「成分をその成分と同じ方向で偏微分して足す」という形です。

3.3 3 次元での成分表示

3 次元のベクトル場

F(x,y,z)=(P(x,y,z)Q(x,y,z)R(x,y,z))\mathbf{F}(x,y,z)= \begin{pmatrix} P(x,y,z)\\[0.35em] Q(x,y,z)\\[0.35em] R(x,y,z) \end{pmatrix}

では、

divF=Px+Qy+Rz\operatorname{div}\mathbf{F} = \frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y} + \frac{\partial R}{\partial z}

です。

2 次元の場合の自然な拡張になっています。

3.4 なぜこれで「湧き出し」を表せるのか

2 次元で考えます。

もし PP が右へ行くほど大きくなっているなら、その小領域では右側から外へ出る流れが強くなります。

同様に、QQ が上へ行くほど大きくなっているなら、上側から外へ出る流れが強くなります。

この 2 つを合わせると、

その小領域から全体として外へ出ていく傾向

が測れそうです。

これが

Px+Qy\frac{\partial P}{\partial x} + \frac{\partial Q}{\partial y}

という式の意味です。

逆にこの値が負なら、外へ出るより中へ入ってくる方が強いので、吸い込まれていると読めます。

3.5 例 1: 一様な流れ

たとえば

F(x,y)=(10)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} 1\\[0.35em] 0 \end{pmatrix}

を考えます。

これはどの点でも右向き一定の流れです。

このとき

P(x,y)=1,Q(x,y)=0P(x,y)=1,\qquad Q(x,y)=0

なので

Px=0,Qy=0\frac{\partial P}{\partial x}=0,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=0

です。

したがって

divF=0\operatorname{div}\mathbf{F}=0

となります。

これは、流れの向きはあるけれど、どこかで湧き出したり吸い込まれたりしているわけではない、ということに対応しています。

3.6 例 2: 外向きに広がる場

次に

F(x,y)=(xy)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} x\\[0.35em] y \end{pmatrix}

を考えます。

この場は原点から外向きに広がっています。

ここで

P(x,y)=x,Q(x,y)=yP(x,y)=x,\qquad Q(x,y)=y

なので

Px=1,Qy=1\frac{\partial P}{\partial x}=1,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=1

です。

したがって

divF=2\operatorname{div}\mathbf{F}=2

となります。

正の値になっているので、この場は各点で外へ広がる傾向を持っていると読めます。

原点から外へ向かって矢印が広がっているので、「湧き出し」のイメージを図として確認できます。

3.7 例 3: 回るだけの場

第 7 回で見た

F(x,y)=(yx)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} -y\\[0.35em] x \end{pmatrix}

を考えます。

この場は原点のまわりを回るような流れでした。

ここで

P(x,y)=y,Q(x,y)=xP(x,y)=-y,\qquad Q(x,y)=x

なので

Px=0,Qy=0\frac{\partial P}{\partial x}=0,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=0

です。

したがって

divF=0\operatorname{div}\mathbf{F}=0

となります。

つまり、この場は回ってはいるけれど、湧き出したり吸い込まれたりしてはいません。

ここから、

回っていることと、発散があることは別

だと分かります。

3.8 発散はスカラー場になる

ベクトル場

F(x,y)\mathbf{F}(x,y)

に発散をとると、

divF\operatorname{div}\mathbf{F}

は各点で 1 つの実数を返します。

したがって、発散の結果は スカラー場 です。

これは第 6 回で

  • スカラー場を微分すると勾配ベクトルができる

と見たのとは逆向きの流れになっています。

つまり、

  • スカラー場 \to 勾配 \to ベクトル場
  • ベクトル場 \to 発散 \to スカラー場

という対応が見えてきます。

4. 例題

例題 1

次のベクトル場の発散を求めよ。

F(x,y)=(xy)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} x\\[0.35em] y \end{pmatrix}

解答

P(x,y)=x,Q(x,y)=yP(x,y)=x,\qquad Q(x,y)=y

なので

Px=1,Qy=1\frac{\partial P}{\partial x}=1,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=1

です。

したがって

divF=1+1=2\operatorname{div}\mathbf{F}=1+1=2

です。

例題 2

次のベクトル場の発散を求めよ。

F(x,y)=(yx)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} -y\\[0.35em] x \end{pmatrix}

解答

P(x,y)=y,Q(x,y)=xP(x,y)=-y,\qquad Q(x,y)=x

なので

Px=0,Qy=0\frac{\partial P}{\partial x}=0,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=0

です。

したがって

divF=0\operatorname{div}\mathbf{F}=0

です。

例題 3

次のベクトル場の発散を求めよ。

F(x,y,z)=(xyz)\mathbf{F}(x,y,z)= \begin{pmatrix} x\\[0.35em] y\\[0.35em] z \end{pmatrix}

解答

xx=1,yy=1,zz=1\frac{\partial x}{\partial x}=1,\qquad \frac{\partial y}{\partial y}=1,\qquad \frac{\partial z}{\partial z}=1

なので

divF=3\operatorname{div}\mathbf{F}=3

です。

5. 練習問題

練習問題 1

次のベクトル場の発散を求めてください。

F(x,y)=(2x3y)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} 2x\\[0.35em] 3y \end{pmatrix}
解答を見る (2x)x=2,(3y)y=3\frac{\partial (2x)}{\partial x}=2,\qquad \frac{\partial (3y)}{\partial y}=3

なので

divF=5\operatorname{div}\mathbf{F}=5

です。

練習問題 2

次のベクトル場の発散を求めてください。

F(x,y)=(yx)\mathbf{F}(x,y)= \begin{pmatrix} y\\[0.35em] x \end{pmatrix}
解答を見る P(x,y)=y,Q(x,y)=xP(x,y)=y,\qquad Q(x,y)=x

なので

Px=0,Qy=0\frac{\partial P}{\partial x}=0,\qquad \frac{\partial Q}{\partial y}=0

です。

したがって

divF=0\operatorname{div}\mathbf{F}=0

です。

練習問題 3

次のベクトル場の発散を求めてください。

F(x,y,z)=(x2y2z2)\mathbf{F}(x,y,z)= \begin{pmatrix} x^2\\[0.35em] y^2\\[0.35em] z^2 \end{pmatrix}
解答を見る (x2)x=2x,(y2)y=2y,(z2)z=2z\frac{\partial (x^2)}{\partial x}=2x,\qquad \frac{\partial (y^2)}{\partial y}=2y,\qquad \frac{\partial (z^2)}{\partial z}=2z

なので

divF=2x+2y+2z\operatorname{div}\mathbf{F}=2x+2y+2z

です。

練習問題 4

発散が正、負、0 のとき、それぞれ流れをどのように読むか説明してください。

解答を見る
  • 発散が正: その点の近くで流れが湧き出している
  • 発散が負: その点の近くで流れが吸い込まれている
  • 発散が 0: 出入りがつり合っている

と読みます。

6. まとめ

今回は、ベクトル場の局所的な広がり具合を表す 発散 を見ました。

重要だったのは、

  • 発散は divF\operatorname{div}\mathbf{F} または F\nabla\cdot\mathbf{F} と書く
  • 発散はベクトルではなく実数を返す
  • 2 次元では Px+Qy\frac{\partial P}{\partial x}+\frac{\partial Q}{\partial y} で与えられる
  • 3 次元では Px+Qy+Rz\frac{\partial P}{\partial x}+\frac{\partial Q}{\partial y}+\frac{\partial R}{\partial z} で与えられる
  • 発散が正なら湧き出し、負なら吸い込み、0 なら出入りがつり合っている
  • 回転している場でも発散が 0 のことはある

という点です。

次回は、今回最後に少し触れた

流れがその点の近くで回ろうとしているか

を見る量、つまり 回転 に進みます。

ひろ アイコン ひろ