第 7 回では、各点にベクトルを対応させる関数
F(x,y),F(x,y,z)
を ベクトル場 と呼ぶことを見ました。
ベクトル場では、各点に
という情報が入っていました。
今回はそこから一歩進んで、
その点の近くで流れが湧き出しているか、吸い込まれているか
を調べる量を考えます。
これが 発散 です。
1. 今回学ぶこと
この記事では、次の内容を扱います。
- divF=∇⋅F
- 発散の意味
- 湧き出しと吸い込み
- 成分表示
ゴールは
発散を、ベクトル場の局所的な広がり具合として読めるようになること
です。
2. 直感的なイメージ
流れ場を考えます。
ある点の近くで、流れが四方へ広がるように出ていくなら、その点は「湧き出し口」のように見えます。
逆に、まわりから流れが集まって吸い込まれていくなら、その点は「吸い込み口」のように見えます。
発散は、このような
を数値で表すものです。
ざっくり言えば、
- 発散が正: 湧き出している
- 発散が負: 吸い込まれている
- 発散が 0: 出入りがつり合っている
と読めます。
3. 基本事項
3.1 発散とは何か
ベクトル場
F
に対して、その発散を
divF
または
∇⋅F
と書きます。
ここで
∇⋅F
の「⋅」は内積に似た記号ですが、今は
ナブラとベクトル場を組み合わせて発散を作る記号
だと思えば十分です。
ただし、もう少し踏み込むと、ここでの ∇ は
∇=∂x∂∂y∂
あるいは 3 次元では
∇=∂x∂∂y∂∂z∂
という ベクトル演算子 だと考えることができます。
この見方をすると、
∇⋅F
の「⋅」は本当に内積と同じ形だと思ってよく、たとえば 2 次元なら
∇⋅F=∂x∂∂y∂⋅(PQ)=∂x∂P+∂y∂Q
となります。
つまり発散は、「ベクトル演算子 ∇ とベクトル場 F の内積」として読むと自然です。
発散の結果は、ベクトルではなく 実数 です。
つまり発散は、ベクトル場から
- 向きの情報を直接返すのではなく
- その点の近くでどれだけ外へ出るか・内へ入るか
を 1 つの数として返します。
3.2 2 次元での成分表示
2 次元のベクトル場
F(x,y)=(P(x,y)Q(x,y))
に対して、発散は
divF=∂x∂P+∂y∂Q
で定義されます。
つまり、
- x 方向成分 P が x 方向にどう変化するか
- y 方向成分 Q が y 方向にどう変化するか
を足し合わせたものです。
ここで大事なのは、「成分をその成分と同じ方向で偏微分して足す」という形です。
3.3 3 次元での成分表示
3 次元のベクトル場
F(x,y,z)=P(x,y,z)Q(x,y,z)R(x,y,z)
では、
divF=∂x∂P+∂y∂Q+∂z∂R
です。
2 次元の場合の自然な拡張になっています。
3.4 なぜこれで「湧き出し」を表せるのか
2 次元で考えます。
もし P が右へ行くほど大きくなっているなら、その小領域では右側から外へ出る流れが強くなります。
同様に、Q が上へ行くほど大きくなっているなら、上側から外へ出る流れが強くなります。
この 2 つを合わせると、
その小領域から全体として外へ出ていく傾向
が測れそうです。
これが
∂x∂P+∂y∂Q
という式の意味です。
逆にこの値が負なら、外へ出るより中へ入ってくる方が強いので、吸い込まれていると読めます。
3.5 例 1: 一様な流れ
たとえば
F(x,y)=(10)
を考えます。
これはどの点でも右向き一定の流れです。
このとき
P(x,y)=1,Q(x,y)=0
なので
∂x∂P=0,∂y∂Q=0
です。
したがって
divF=0
となります。
これは、流れの向きはあるけれど、どこかで湧き出したり吸い込まれたりしているわけではない、ということに対応しています。
3.6 例 2: 外向きに広がる場
次に
F(x,y)=(xy)
を考えます。
この場は原点から外向きに広がっています。
ここで
P(x,y)=x,Q(x,y)=y
なので
∂x∂P=1,∂y∂Q=1
です。
したがって
divF=2
となります。
正の値になっているので、この場は各点で外へ広がる傾向を持っていると読めます。
原点から外へ向かって矢印が広がっているので、「湧き出し」のイメージを図として確認できます。
3.7 例 3: 回るだけの場
第 7 回で見た
F(x,y)=(−yx)
を考えます。
この場は原点のまわりを回るような流れでした。
ここで
P(x,y)=−y,Q(x,y)=x
なので
∂x∂P=0,∂y∂Q=0
です。
したがって
divF=0
となります。
つまり、この場は回ってはいるけれど、湧き出したり吸い込まれたりしてはいません。
ここから、
回っていることと、発散があることは別
だと分かります。
3.8 発散はスカラー場になる
ベクトル場
F(x,y)
に発散をとると、
divF
は各点で 1 つの実数を返します。
したがって、発散の結果は スカラー場 です。
これは第 6 回で
と見たのとは逆向きの流れになっています。
つまり、
- スカラー場 → 勾配 → ベクトル場
- ベクトル場 → 発散 → スカラー場
という対応が見えてきます。
4. 例題
例題 1
次のベクトル場の発散を求めよ。
F(x,y)=(xy)
解答
P(x,y)=x,Q(x,y)=y
なので
∂x∂P=1,∂y∂Q=1
です。
したがって
divF=1+1=2
です。
例題 2
次のベクトル場の発散を求めよ。
F(x,y)=(−yx)
解答
P(x,y)=−y,Q(x,y)=x
なので
∂x∂P=0,∂y∂Q=0
です。
したがって
divF=0
です。
例題 3
次のベクトル場の発散を求めよ。
F(x,y,z)=xyz
解答
∂x∂x=1,∂y∂y=1,∂z∂z=1
なので
divF=3
です。
5. 練習問題
練習問題 1
次のベクトル場の発散を求めてください。
F(x,y)=(2x3y)
解答を見る
∂x∂(2x)=2,∂y∂(3y)=3
なので
divF=5
です。
練習問題 2
次のベクトル場の発散を求めてください。
F(x,y)=(yx)
解答を見る
P(x,y)=y,Q(x,y)=x
なので
∂x∂P=0,∂y∂Q=0
です。
したがって
divF=0
です。
練習問題 3
次のベクトル場の発散を求めてください。
F(x,y,z)=x2y2z2
解答を見る
∂x∂(x2)=2x,∂y∂(y2)=2y,∂z∂(z2)=2z
なので
divF=2x+2y+2z
です。
練習問題 4
発散が正、負、0 のとき、それぞれ流れをどのように読むか説明してください。
解答を見る
- 発散が正: その点の近くで流れが湧き出している
- 発散が負: その点の近くで流れが吸い込まれている
- 発散が 0: 出入りがつり合っている
と読みます。
6. まとめ
今回は、ベクトル場の局所的な広がり具合を表す 発散 を見ました。
重要だったのは、
- 発散は divF または ∇⋅F と書く
- 発散はベクトルではなく実数を返す
- 2 次元では ∂x∂P+∂y∂Q で与えられる
- 3 次元では ∂x∂P+∂y∂Q+∂z∂R で与えられる
- 発散が正なら湧き出し、負なら吸い込み、0 なら出入りがつり合っている
- 回転している場でも発散が 0 のことはある
という点です。
次回は、今回最後に少し触れた
流れがその点の近くで回ろうとしているか
を見る量、つまり 回転 に進みます。