第 6 回では、各点に実数を対応させる関数
f(x,y),f(x,y,z)
を考えて、偏微分や勾配ベクトル
∇f
を見ました。
今回はその次の段階として、
各点にベクトルが対応する関数
を考えます。
これが ベクトル場 です。
ベクトル解析では、むしろこちらが主役です。
流体の流れ、電場、磁場、重力場など、
「各点で向きと大きさを持つ量」を表したい場面が非常に多いからです。
1. 今回学ぶこと
この記事では、次の内容を扱います。
- ベクトル場
- F(x,y), F(x,y,z)
- 流れ場
- 力場
- ベクトル場の読み方
ゴールは
各点にベクトルが対応するとはどういうことかを理解し、ベクトル解析で扱う対象を自然に読めるようになること
です。
2. 直感的なイメージ
スカラー場では、各点に 1 つの実数が対応していました。
たとえば
のような量です。
一方で、世の中には
- その点で水がどちらへ流れているか
- その点で風がどちらへ吹いているか
- その点で物体がどちら向きに力を受けるか
のように、向き と 大きさ を同時に持つ量があります。
これを表すには、実数 1 つでは足りません。
各点にベクトルを対応させる必要があります。
それをまとめて扱うのがベクトル場です。
3. 基本事項
3.1 ベクトル場とは何か
ベクトル場とは、各点にベクトルを対応させる関数のことです。
2 次元なら
F(x,y)
3 次元なら
F(x,y,z)
のように書きます。
ここで太字の
F
は、値がベクトルであることを表しています。
たとえば 2 次元では
F(x,y)=(P(x,y)Q(x,y))
のように書けます。
つまり、各点 (x,y) に対して
を持つベクトルが 1 本決まるわけです。
3 次元なら同様に
F(x,y,z)=P(x,y,z)Q(x,y,z)R(x,y,z)
となります。
3.2 スカラー場との違い
スカラー場とベクトル場の違いは、各点に対応する値の種類です。
スカラー場は
f(x,y)
のように、各点に実数を対応させます。
ベクトル場は
F(x,y)
のように、各点にベクトルを対応させます。
つまり
- スカラー場は「数の地図」
- ベクトル場は「矢印の地図」
だと思うと分かりやすいです。
第 6 回で見た勾配ベクトル
∇f
も、各点ごとにベクトルが決まるので、見方を変えればベクトル場になっています。
この意味で、スカラー場を微分するとベクトル場が現れるわけです。
3.3 流れ場
ベクトル場の最も典型的な例は 流れ場 です。
たとえば平面上の各点で、流体や風の速度が
v(x,y)
で与えられているとします。
このとき v(x,y) は、
- その点で流れが向いている方向
- その点で流れがどれくらい速いか
を同時に表しています。
したがって、ベクトル場を平面上に描くと、各点に小さな矢印が並んだ図になります。
矢印の
を表します。
たとえば
F(x,y)=(10)
なら、どの点でも右向きに同じ速さで流れている場です。
また
F(x,y)=(xy)
なら、原点から外向きへ広がるような場になります。
3.4 力場
もう 1 つの代表例は 力場 です。
各点に置かれた質点が、その場所でどの向きにどれくらいの力を受けるかを
F(x,y,z)
で表します。
たとえば重力や電場は、このようなベクトル場として考えられます。
重要なのは、
ベクトル場は、物体そのものではなく、その場所で作用するベクトルを記録している
ということです。
つまり、空間そのものに「矢印の情報」が埋め込まれているイメージです。
3.5 ベクトル場の例
例として
F(x,y)=(−yx)
を考えます。
点 (1,0) では
F(1,0)=(01)
なので、上向きのベクトルになります。
点 (0,1) では
F(0,1)=(−10)
なので、左向きのベクトルになります。
このように、場所によって矢印の向きが回転していくので、この場は原点のまわりを回るような流れを表していると読めます。
各点で矢印の向きが少しずつ回っていく様子をそのまま確認できます。
ベクトル場では、このように
- 式を見て各点のベクトルを計算する
- いくつかの点で向きを調べる
- 全体としてどんな流れかを読む
という見方が大切です。
3.6 ベクトル場の大きさ
ベクトル場では、各点でベクトルの大きさも考えられます。
たとえば
F(x,y)=(xy)
なら、
∥F(x,y)∥=x2+y2
です。
これは原点から離れるほど大きくなります。
したがって、この場では
- 向きは原点から外向き
- 強さは原点から遠いほど大きい
と読めます。
ベクトル場は「方向」だけでなく「強さ」まで含めた情報だということがここから分かります。
3.7 なぜベクトル解析で重要なのか
ベクトル解析では、今後
などを扱います。
これらはすべて、ベクトル場をどう読むかに関係しています。
たとえば次回扱う 発散 は、
その点の近くで流れが湧き出しているか、吸い込まれているか
を見る量です。
またその次の 回転 は、
その点の近くで流れが回ろうとしているか
を見る量です。
つまりベクトル場は、ベクトル解析の中心にある対象です。
4. 例題
例題 1
次の関数がスカラー場かベクトル場かを判定せよ。
f(x,y)=x2+y2,F(x,y)=(xy)
解答
f(x,y)=x2+y2
は各点に実数を対応させているので、スカラー場です。
一方
F(x,y)=(xy)
は各点にベクトルを対応させているので、ベクトル場です。
例題 2
ベクトル場
F(x,y)=(21)
はどのような場か説明せよ。
解答
どの点でも同じベクトル
(21)
が対応しているので、場全体で矢印の向きも大きさも一定です。
したがって、右上方向へ一様に流れる流れ場だと読めます。
例題 3
ベクトル場
F(x,y)=(xy)
に対して、点 (1,2) におけるベクトルを求めよ。
解答
代入すると
F(1,2)=(12)
です。
5. 練習問題
練習問題 1
次の関数がスカラー場かベクトル場かを判定してください。
g(x,y,z)=x−y+z,G(x,y)=(x−yx+y)
解答を見る
g(x,y,z)=x−y+z
は各点に実数を対応させるので、スカラー場です。
G(x,y)=(x−yx+y)
は各点にベクトルを対応させるので、ベクトル場です。
練習問題 2
ベクトル場
F(x,y)=(y0)
に対して、点 (2,3) におけるベクトルを求めてください。
解答を見る
F(2,3)=(30)
です。
練習問題 3
ベクトル場
F(x,y)=(xy)
の大きさ ∥F(x,y)∥ を求めてください。
解答を見る
∥F(x,y)∥=x2+y2
です。
練習問題 4
ベクトル場
F(x,y)=(−yx)
が、原点のまわりを回るような場になっていることを、いくつかの点で確かめてください。
解答を見る
たとえば
F(1,0)=(01),F(0,1)=(−10)
です。
また
F(−1,0)=(0−1)
なので、各点で接線方向に向くような回転の場になっています。
6. まとめ
今回は、各点にベクトルを対応させる ベクトル場 を見ました。
重要だったのは、
- ベクトル場は各点にベクトルを対応させる関数である
- 2 次元では F(x,y)、3 次元では F(x,y,z) と書く
- スカラー場は「数の地図」、ベクトル場は「矢印の地図」と見なせる
- 流れ場では向きが流れの向き、長さが流れの強さを表す
- 力場では各点で作用する力の向きと大きさを表す
- ベクトル場は今後の発散や回転の基本対象になる
という点です。
第 6 回ではスカラー場を微分して勾配ベクトルを見ましたが、その結果として現れたものも 1 つのベクトル場でした。
次回は、このベクトル場に対して
divF=∇⋅F
を考えます。
つまり、流れがその点で湧き出しているのか、吸い込まれているのかを調べる 発散 に進みます。