ベクトル解析完全講座 第1回 ベクトルとは何か

基礎

今回は、今までの単発の記事よりも少し腰を据えて、全 12 回の講座 という形で進めていきます。

この講座では、ベクトル解析を次の流れで見ていきます。

ベクトル → ベクトル関数 → 勾配 → 発散 → 回転 → 積分 → ガウス・ストークス

この第 1 回では、ベクトル解析で扱うベクトルについて、定義や考え方をしっかり見ていきます。

高校でもベクトルは出てきますが、ベクトル解析ではベクトルを

  • 図形の道具
  • 空間内の点や移動を表す記述
  • 関数や場を作るための基本単位

として使います。

つまり、ただ計算ができればよいというより、

ベクトルを空間の中の対象としてどう見るか

が重要になります。

この記事では、その立場からベクトルを整理し直します。

1. 今回学ぶこと

この記事では、次の内容を扱います。

  • ベクトル解析でいうベクトルの意味
  • R2\mathbb{R}^2R3\mathbb{R}^3 のベクトル
  • ノルム
  • 零ベクトルと単位ベクトル
  • 位置ベクトル
  • 線形結合

ゴールは

ベクトルを、図形と成分の両方から理解し、ベクトル解析の出発点として使えるようにすること

です。

2. 直感的なイメージ

ベクトル解析では、空間の中にあるものをたくさんベクトルで表します。

たとえば、

  • 点の位置
  • 点の移動
  • 速度
  • 曲線に沿った接線方向

などです。

このときベクトルは、単なる「矢印の図」ではなく、

空間の中で向きと大きさをもつ量を表す記号

として使われます。

さらにあとで出てくるベクトル値関数

r(t)=(x(t)y(t)z(t))\mathbf{r}(t)= \begin{pmatrix} x(t)\\ y(t)\\ z(t) \end{pmatrix}

やベクトル場

F(x,y,z)\mathbf{F}(x,y,z)

も、結局は「各点でベクトルがどう与えられるか」を扱っています。

なので第 1 回では、ベクトルを高校の復習として軽く流すのではなく、

この先ずっと使う基本言語

として整えておく必要があります。

3. 基本事項

3.1 ベクトル解析でいうベクトル

ベクトル解析では、まず 2 次元や 3 次元の実数空間を考えます。

2 次元なら

R2={(xy)|x,yR}\mathbb{R}^2=\left\{ \begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix} \middle| x,y\in\mathbb{R} \right\}

3 次元なら

R3={(xyz)|x,y,zR}\mathbb{R}^3=\left\{ \begin{pmatrix} x\\ y\\ z \end{pmatrix} \middle| x,y,z\in\mathbb{R} \right\}

です。

ベクトル解析でいうベクトルとは、基本的にはこれらの空間の元です。

つまり 2 次元では

a=(a1a2)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} a_1\\ a_2 \end{pmatrix}

3 次元では

a=(a1a2a3)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} a_1\\ a_2\\ a_3 \end{pmatrix}

のような実数の組をベクトルとして扱います。

ここで大事なのは、

ベクトルは「数の組」であると同時に、「空間の中の向きと大きさ」を表している

ということです。

この 2 つの見方を行き来しながら考えるのが、ベクトル解析の基本です。

座標平面上で点 (2,1) とベクトル \mathbf{a}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix} の対応を示す図

図のように、同じ (2,1)(2,1) という情報が、点としても、原点からその点へ向かうベクトルとしても見られます。 この「座標の組」と「向きと大きさ」を対応させる見方が、ベクトル解析の出発点です。

3.2 ベクトルの表記

本講座では、ベクトルを

a,b,r\mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{r}

のように太字で表します。

また、表記は

  • 点は (x,y,z)(x,y,z) のような丸括弧
  • ベクトルは (xyz)\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix} のような列ベクトル

で統一していきます。

これは、点とベクトルを見分けやすくするためです。

特に

r=(xyz)\mathbf{r}= \begin{pmatrix} x\\ y\\ z \end{pmatrix}

は位置ベクトルを表す記号として頻繁に登場します。

3.3 ベクトルの和と実数倍

ベクトル空間としてまず必要なのは、ベクトルどうしを足せることと、実数倍できることです。

a=(a1a2a3),b=(b1b2b3)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} a_1\\ a_2\\ a_3 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{b}= \begin{pmatrix} b_1\\ b_2\\ b_3 \end{pmatrix}

に対して、

a+b=(a1+b1a2+b2a3+b3)\mathbf{a}+\mathbf{b}= \begin{pmatrix} a_1+b_1\\ a_2+b_2\\ a_3+b_3 \end{pmatrix}

と定めます。

また、実数 cc に対して

ca=(ca1ca2ca3)c\mathbf{a}= \begin{pmatrix} ca_1\\ ca_2\\ ca_3 \end{pmatrix}

と定めます。

これは単なる計算規則ではありません。

  • 和は移動の合成
  • 実数倍は長さの拡大縮小と向きの反転

を表しています。

たとえば 2a2\mathbf{a}a\mathbf{a} と同じ向きで長さが 2 倍のベクトルであり、 a-\,\mathbf{a} は長さは同じで向きが逆のベクトルです。

3.4 線形結合

ベクトル解析では、ベクトルの和と実数倍を組み合わせた

c1a1+c2a2++cnanc_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_n\mathbf{a}_n

という形を何度も使います。

これを 線形結合 といいます。

ここで

e1,e2,e3\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\mathbf{e}_3

のようなベクトルは、座標軸方向を表す基本ベクトルであり、標準基底 と呼ばれます。

たとえば 2 次元では、

e1=(10),e2=(01)\mathbf{e}_1= \begin{pmatrix} 1\\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2= \begin{pmatrix} 0\\ 1 \end{pmatrix}

を使うと、任意のベクトル

(xy)\begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix}

(xy)=xe1+ye2\begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix} =x\mathbf{e}_1+y\mathbf{e}_2

と書けます。

3 次元でも

e1=(100),e2=(010),e3=(001)\mathbf{e}_1= \begin{pmatrix} 1\\ 0\\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2= \begin{pmatrix} 0\\ 1\\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_3= \begin{pmatrix} 0\\ 0\\ 1 \end{pmatrix}

を使って

(xyz)=xe1+ye2+ze3\begin{pmatrix} x\\ y\\ z \end{pmatrix} =x\mathbf{e}_1+y\mathbf{e}_2+z\mathbf{e}_3

と書けます。

この見方はとても重要です。 なぜなら、空間内のベクトルが「基本ベクトルの組み合わせ」として表せることが、そのまま成分表示の意味だからです。

標準基底 \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2 を使って \begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}=2\mathbf{e}_1+\mathbf{e}_2 を表した図

図では、まず e1\mathbf{e}_1 方向に 2 だけ進み、次に e2\mathbf{e}_2 方向に 1 だけ進むことで

(21)\begin{pmatrix} 2\\ 1 \end{pmatrix}

ができています。 つまり成分表示とは、標準基底を何倍ずつ足したかを表しているわけです。

3.5 ノルム

ベクトルの大きさを測る量を ノルム といいます。

ベクトル解析で最も基本になるのはユークリッドノルムで、

a=(a1a2a3)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} a_1\\ a_2\\ a_3 \end{pmatrix}

に対して

a=a12+a22+a32\|\mathbf{a}\|=\sqrt{a_1^2+a_2^2+a_3^2}

と定めます。

2 次元なら

a=a12+a22\|\mathbf{a}\|=\sqrt{a_1^2+a_2^2}

です。

高校では絶対値記号 a|\mathbf{a}| で書くことも多いですが、大学以降は数の絶対値と区別して

a\|\mathbf{a}\|

と書くことがよくあります。

この記法は今後の講座でも使っていきます。

ノルムは単に長さを表すだけでなく、

  • ベクトルが 0 に近いか
  • 単位ベクトルになっているか
  • 距離がどれくらいか

を判断する基準になります。

実際、2 つのベクトル a,b\mathbf{a},\mathbf{b} の距離は

d(a,b)=abd(\mathbf{a},\mathbf{b})=\|\mathbf{a}-\mathbf{b}\|

で定義されます。

この距離の考え方は、後で極限や連続を定義するときに重要になります。

ベクトル (3,4) のノルムが \|(3,4)\|=5 になることを示す図

図の直角三角形を見ると、ベクトル

(34)\begin{pmatrix} 3\\ 4 \end{pmatrix}

の長さが、横 3、縦 4 の三平方で求まることが分かります。 ノルムは、まさにこの斜辺の長さです。

3.6 零ベクトルと単位ベクトル

0=(00)\mathbf{0}= \begin{pmatrix} 0\\ 0 \end{pmatrix}

0=(000)\mathbf{0}= \begin{pmatrix} 0\\ 0\\ 0 \end{pmatrix}

のようなベクトルを 零ベクトル といいます。

零ベクトルは長さ 0 のベクトルで、向きを持ちません。

また、ノルムが 1 のベクトルを 単位ベクトル といいます。

ベクトル a0\mathbf{a}\neq\mathbf{0} に対して

aa\frac{\mathbf{a}}{\|\mathbf{a}\|}

a\mathbf{a} と同じ向きの単位ベクトルです。

たとえば

a=(34)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} 3\\ 4 \end{pmatrix}

なら

a=5,aa=(3545)\|\mathbf{a}\|=5,\quad \frac{\mathbf{a}}{\|\mathbf{a}\|}= \begin{pmatrix} \frac35\\[2pt] \frac45 \end{pmatrix}

です。

単位ベクトルが重要なのは、向きを長さから切り離して扱えるからです。

このあと内積を使って角度を考えるときも、勾配の向きを考えるときも、線積分で接線方向をそろえるときも、単位ベクトルは基本になります。

3.7 位置ベクトル

ベクトル解析では、点 P=(x,y,z)P=(x,y,z) をそのまま扱うよりも、 原点 OO から点 PP へ向かうベクトル

OP\overrightarrow{OP}

で考えることが多くなります。

これを 位置ベクトル といいます。

位置ベクトルを使うと、点を

空間内の場所

としてではなく、

原点からどのように到達するか

として記述できます。

たとえば

P=(2,1,3)P=(2,-1,3)

なら、その位置ベクトルは

OP=(213)\overrightarrow{OP}= \begin{pmatrix} 2\\ -1\\ 3 \end{pmatrix}

です。

この見方を使うと、2 点 A,BA,B に対して

AB=OBOA\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA}

と書けます。

つまり「点から点への移動」が、位置ベクトルの差として表されます。

これは後で曲線

r(t)\mathbf{r}(t)

を考えるときに、そのまま

時刻 tt における点の位置

を表す形につながります。

位置ベクトル \overrightarrow{OP} と移動ベクトル \overrightarrow{AB}=\overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA} の関係を示す図

図の OP\overrightarrow{OP} は、点 PP の位置そのものを表しています。 また、AB\overrightarrow{AB} は 2 点 A,BA,B の位置ベクトルの差として表されており、「どこからどこへ動いたか」が差で書けることも読み取れます。

3.8 ベクトルは点ではない

ここで 1 つ注意があります。

成分表示が同じなので、

P=(2,1),OP=(21)P=(2,1),\quad \overrightarrow{OP}= \begin{pmatrix} 2\\ 1 \end{pmatrix}

を同じもののように見てしまいがちです。

実際、座標としては同じ数字が並びます。 しかし意味は違います。

  • P=(2,1)P=(2,1) は点
  • OP=(21)\overrightarrow{OP}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix} はベクトル

です。

点は「場所」であり、ベクトルは「向きと大きさをもつ量」です。

ただし位置ベクトルを使うことで、点をベクトルとして扱えるようになるので、計算上はとても便利になります。

ベクトル解析では、この区別と対応を意識しておくことが重要です。

4. 例題

例題 1

a=(213)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} 2\\ -1\\ 3 \end{pmatrix}

について、次を求めよ。

  1. a\|\mathbf{a}\|
  2. a\mathbf{a} と同じ向きの単位ベクトル
  3. a\mathbf{a}e1,e2,e3\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\mathbf{e}_3 の線形結合で表した式

解答

まず

a=22+(1)2+32=14\|\mathbf{a}\| = \sqrt{2^2+(-1)^2+3^2} = \sqrt{14}

です。

したがって単位ベクトルは

aa=114(213)\frac{\mathbf{a}}{\|\mathbf{a}\|} = \frac{1}{\sqrt{14}} \begin{pmatrix} 2\\ -1\\ 3 \end{pmatrix}

です。

また、

e1=(100),e2=(010),e3=(001)\mathbf{e}_1= \begin{pmatrix} 1\\ 0\\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2= \begin{pmatrix} 0\\ 1\\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_3= \begin{pmatrix} 0\\ 0\\ 1 \end{pmatrix}

なので

a=2e1e2+3e3\mathbf{a}=2\mathbf{e}_1-\mathbf{e}_2+3\mathbf{e}_3

と書けます。

例題 2

A=(1,2,1),B=(3,1,4)A=(1,2,-1),\quad B=(3,-1,4)

に対して、AB\overrightarrow{AB} を求めよ。

解答

位置ベクトルを使うと

OA=(121),OB=(314)\overrightarrow{OA}= \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ -1 \end{pmatrix}, \quad \overrightarrow{OB}= \begin{pmatrix} 3\\ -1\\ 4 \end{pmatrix}

なので

AB=OBOA=(314)(121)=(235)\overrightarrow{AB} = \overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA} = \begin{pmatrix} 3\\ -1\\ 4 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ -1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2\\ -3\\ 5 \end{pmatrix}

です。

ここで見えているのは、点と点の差が移動ベクトルになっているということです。

5. 練習問題

練習問題 1

a=(122)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ 2 \end{pmatrix}

のノルムを求めてください。

解答を見る a=12+22+22=9=3\|\mathbf{a}\|=\sqrt{1^2+2^2+2^2}=\sqrt{9}=3

です。

練習問題 2

a=(212)\mathbf{a}= \begin{pmatrix} -2\\ 1\\ 2 \end{pmatrix}

と同じ向きの単位ベクトルを求めてください。

解答を見る

まず

a=(2)2+12+22=9=3\|\mathbf{a}\|=\sqrt{(-2)^2+1^2+2^2}=\sqrt{9}=3

なので、同じ向きの単位ベクトルは

aa=(231323)\frac{\mathbf{a}}{\|\mathbf{a}\|}= \begin{pmatrix} -\frac23\\ \frac13\\ \frac23 \end{pmatrix}

です。

練習問題 3

(324)\begin{pmatrix} 3\\ -2\\ 4 \end{pmatrix}

e1,e2,e3\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\mathbf{e}_3 の線形結合で表してください。

解答を見る (324)=3e12e2+4e3\begin{pmatrix} 3\\ -2\\ 4 \end{pmatrix} =3\mathbf{e}_1-2\mathbf{e}_2+4\mathbf{e}_3

です。

練習問題 4

A=(2,0,1),B=(1,3,5)A=(2,0,1),\quad B=(-1,3,5)

に対して、AB\overrightarrow{AB} を求めてください。

解答を見る AB=OBOA=(135)(201)=(334)\overrightarrow{AB} = \overrightarrow{OB}-\overrightarrow{OA} = \begin{pmatrix} -1\\ 3\\ 5 \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} 2\\ 0\\ 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -3\\ 3\\ 4 \end{pmatrix}

です。

練習問題 5

なぜ零ベクトルには向きがないと考えるのか、自分の言葉で説明してみてください。

解答を見る

零ベクトルは長さが 0 なので、「どちらへ向いているか」を区別する情報を持ちません。 向きだけを変えたとしても同じ零ベクトルのままなので、向きは定まらないと考えます。

6. まとめ

ベクトル解析でいうベクトルは、R2\mathbb{R}^2R3\mathbb{R}^3 の元として与えられる実数の組です。

ただし、それは単なる数の並びではなく、

空間の中の向きと大きさをもつ量

として理解されます。

今回見たポイントをまとめると、

  • ベクトルは和と実数倍ができる
  • ベクトルは線形結合で表せる
  • ノルムはベクトルの大きさを与える
  • 零ベクトルと単位ベクトルは基本的な特別例である
  • 位置ベクトルによって点をベクトルとして扱える
  • 点の差は移動ベクトルになる

ということでした。

ベクトル解析では、曲線は位置ベクトル

r(t)\mathbf{r}(t)

で表され、勾配・発散・回転はベクトルを使って定義されます。

そのため、今回学んだ

  • 線形結合
  • ノルム
  • 単位ベクトル
  • 位置ベクトル

は、今後のすべての内容の土台になります。

この見方を持っておくと、次回の内積と外積も「ただの公式」ではなく、ベクトルどうしの関係を測る道具として理解しやすくなります。

次回は、ベクトルの長さや向きだけでなく、

  • 2 つのベクトルがどれくらい同じ向きを向いているか
  • 2 つのベクトルがどれくらい広がりを作るか

を見るために、内積と外積 を扱います。

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