第 11 回では、面積分
∬SF⋅ndS
と、発散定理
∭VdivFdV=∬∂VF⋅ndS
を見ました。
今回はそれと対になる定理として、
境界曲線に沿ってまわる量と、面の上での回転の総量を結びつける定理
を考えます。
これが ストークスの定理 です。
1. 今回学ぶこと
この記事では、次の内容を扱います。
- ストークスの定理
- 線積分と面積分の関係
- 回転の面積分
- ガウスの発散定理との比較
2. 直感的なイメージ
ベクトル場を流れ場だと思ってください。
ある曲面 S をとり、その境界に沿って 1 周する閉曲線 C を考えます。
このとき、境界 C に沿って流れがどれだけ回ろうとしているかを測るのが線積分
∮CF⋅dr
です。
一方で、第 9 回で見た回転
rotF
は、各点での局所的な回転傾向を表していました。
したがって、
面全体の中でどれだけ回転傾向が積み重なっているか
を足し合わせれば、境界を 1 周したときの回り方に対応しそうです。
この直感を正確に表したものがストークスの定理です。
3. 基本事項
3.1 ストークスの定理
向きを持つ曲面 S と、その境界である閉曲線
C=∂S
に対して、
∮CF⋅dr=∬S(rotF)⋅ndS
が成り立ちます。
これが ストークスの定理 です。
左辺は、境界曲線に沿うベクトル場の線積分です。
右辺は、回転ベクトル
rotF
の法線方向成分を面全体で足し合わせた面積分です。
つまりストークスの定理は、
境界に沿ってまわる量 = 面の上の回転の総量
を表しています。
3.2 なぜ回転の法線方向成分なのか
回転
rotF
はベクトルです。
しかし、曲面 S に対して本当に効いているのは、その面に垂直な方向の回転だけです。
面に平行な方向の回転ベクトルは、その面をまたぐ小さな循環には直接効きません。
そこで
(rotF)⋅n
によって、法線方向成分だけを取り出します。
これは第 11 回で、面積分で
F⋅n
を使って法線方向成分を取り出したのと同じ考え方です。
3.3 向きの約束
ストークスの定理では、曲面の向きと境界曲線の向きが対応していなければなりません。
法線ベクトル n を決めると、境界曲線の正の向きは 右ねじの法則 で決まります。
たとえば法線が上向きなら、上から見て反時計回りが正の向きです。
この向きが逆になると、線積分の符号も面積分の符号も変わります。
3.4 小さな面の循環を足すという見方
ストークスの定理は、曲面を細かく分けて考えると、
- 各小片での局所的な回転
- それを全部足したときに残る境界の循環
が対応している定理だと思うとイメージしやすいです。
なぜそうなるのかをきちんと追うには、内部の共有辺がどう打ち消し合うかまで見る必要があります。
その説明は本体では深入りせず、補足記事に分けます。
寄り道
3.5 平面領域での見え方
xy 平面内の領域 D を上向き法線
n=001
で見ると、ストークスの定理は
∮∂DF⋅dr=∬D(rotF)⋅ndA
となります。
2 次元のベクトル場
F(x,y)=(P(x,y)Q(x,y))
を 3 次元に持ち上げて考えると、
(rotF)⋅n=∂x∂Q−∂y∂P
です。
したがって平面では、境界に沿う線積分が、領域全体の回転の総量と一致することになります。
3.6 具体例
ベクトル場
F(x,y,z)=−yx0
を考え、S を xy 平面上の単位円板、C=∂S をその境界の単位円とします。
第 9 回で見たように、
rotF=002
です。
法線を上向きにとると
(rotF)⋅n=2
なので、
∬S(rotF)⋅ndS=∬S2dS=2π
となります。
ストークスの定理より、これは境界円に沿う線積分
∮CF⋅dr
の値でもあります。
実際、境界円 C を
r(t)=costsint0(0≤t≤2π)
とおくと、
r′(t)=−sintcost0
です。
また
F(r(t))=−sintcost0
なので、
F(r(t))⋅r′(t)=sin2t+cos2t=1
となります。
したがって
∮CF⋅dr=∫02π1dt=2π
です。
このように、面積分を計算しても線積分を計算しても同じ値 2π になります。
つまりこの場では、円板全体に一様な回転傾向が広がっており、その総量が境界の循環として現れます。
3.7 ガウスの発散定理との比較
第 11 回のガウスの発散定理は
∭VdivFdV=∬∂VF⋅ndS
でした。
これは
を結びつける定理です。
一方、ストークスの定理は
を結びつけます。
つまり
- ガウスの定理は 体積と面
- ストークスの定理は 面と線
を結ぶ定理です。
この対応を見ると、ベクトル解析全体がきれいに整理されます。
4. 例題
例題 1
ベクトル場
F(x,y,z)=−yx0
に対して、xy 平面上の半径 1 の円板を上向きに向けたとき、
∬S(rotF)⋅ndS
を求めよ。
解答
rotF=002
です。
したがって
(rotF)⋅n=2
です。
円板の面積は π なので、
∬S(rotF)⋅ndS=2π
です。
例題 2
ベクトル場
F(x,y,z)=100
に対して、任意の曲面 S とその境界 C について
∮CF⋅dr
の値を求めよ。
解答
このベクトル場では
rotF=000
です。
したがって面積側は
∬S(rotF)⋅ndS=0
です。
また線積分の側も
∮CF⋅dr=∮C1dx
ですが、閉曲線では始点と終点の x 座標が同じなので
∮C1dx=0
です。
したがってこちらも 0 で、両辺が一致します。
例題 3
ストークスの定理とガウスの発散定理の違いを説明せよ。
解答
ストークスの定理は、面の上の回転の総量と、その境界曲線に沿う循環を結びつけます。
ガウスの発散定理は、立体内部の発散の総量と、その境界面を通る流束を結びつけます。
つまり、前者は面と線の関係、後者は体積と面の関係を扱っています。
5. 練習問題
練習問題 1
ベクトル場
F(x,y,z)=−yx0
の回転を求めてください。
解答を見る
rotF=002
です。
練習問題 2
ベクトル場
F(x,y,z)=000
に対して、
∮CF⋅dr
の値を求めてください。
解答を見る
常に 0 ベクトルなので、線積分も 0 です。
ストークスの定理を使っても、回転が 0 なので値は 0 です。
練習問題 3
ストークスの定理で、右辺に
(rotF)⋅n
が現れる理由を説明してください。
解答を見る
回転はベクトルですが、曲面に対して効くのは法線方向成分だからです。
したがって、面に垂直な向きの回転だけを取り出すために
(rotF)⋅n
が現れます。
練習問題 4
ストークスの定理とガウスの発散定理が、それぞれ何と何を結びつける定理かを説明してください。
解答を見る
ストークスの定理は、面の上の回転の総量と境界曲線に沿う循環を結びつけます。
ガウスの発散定理は、体積内部の発散の総量と境界面を通る流束を結びつけます。
6. まとめ
今回は、境界曲線に沿う線積分と、面の上の回転の総量を結びつける ストークスの定理 を見ました。
重要だったのは、
- ストークスの定理は ∮CF⋅dr=∬S(rotF)⋅ndS である
- 線積分による循環と、回転の面積分が対応している
- 右辺では回転の法線方向成分だけを見ている
- 曲面の向きと境界曲線の向きは右ねじの法則で対応する
- ガウスの定理が体積と面を結ぶのに対して、ストークスの定理は面と線を結ぶ
という点です。
ここまでで、
- 勾配
- 発散
- 回転
- 線積分
- 面積分
- ガウスの発散定理
- ストークスの定理
という、ベクトル解析の基本的な道具を一通り見ました。
個々の公式を別々に覚えるのではなく、
- スカラー場から勾配が生まれる
- ベクトル場から発散や回転が生まれる
- それらを積分すると、境界との関係を表す定理が現れる
という流れで見ると、全体が 1 本につながって見えてきます。
この第 12 回で、ベクトル解析完全講座は完結です。
もちろん各定理の厳密な証明や、より一般の曲面・曲線での扱いなど、先にはまだ発展的な内容があります。
ただ少なくとも、
- ベクトルとは何か
- ベクトル場をどう読むか
- 勾配・発散・回転が何を表すか
- 線積分・面積分と境界の関係をどう見るか
というベクトル解析の基本的な地図は、ここまでで一通りそろいました。