ベクトル解析完全講座 第6回 偏微分と勾配

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ベクトル解析完全講座

第6回 / 全12回

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第 5 回までは、主に

r(t)\mathbf{r}(t)

のようなベクトル値関数を微分して、曲線の接ベクトルや速度ベクトルを見てきました。

今回は少し視点を変えて、

各点に実数が割り当てられる関数

を考えます。

ベクトル解析では、温度、濃度、電位、地形の高さなど、

  • 点ごとに数値が決まる量

を扱うことが非常に多いです。

このような量を表す関数に対して、どの方向へ行くと増えるのか、どのくらい急に増えるのかを調べるのが今回のテーマです。

ここで最初に出てくるのが

f\nabla f

すなわち 勾配 です。

1. 今回学ぶこと

この記事では、次の内容を扱います。

  • スカラー場
  • 偏微分
  • 方向微分
  • 勾配ベクトル
  • 最大増加方向

ゴールは

多変数関数の変化を、偏微分と勾配を使って読めるようになること

です。

2. 直感的なイメージ

まず 2 変数関数

f(x,y)f(x,y)

を考えます。

これは平面上の各点 (x,y)(x,y) に対して、1 つの実数を対応させる関数です。

たとえば、

  • 地図上の各点に高さを対応させる
  • 部屋の各位置に温度を対応させる

といったイメージです。

このとき知りたいのは、

  • xx 方向へ進むとどれだけ変わるか
  • yy 方向へ進むとどれだけ変わるか
  • 任意の方向へ進むとどれだけ変わるか

です。

偏微分は、座標軸方向の変化を見ています。 方向微分は、好きな方向の変化を見ています。 そして勾配ベクトルは、

最も急に増える方向

をまとめて教えてくれるベクトルです。

3. 基本事項

3.1 スカラー場

ベクトル解析では、各点に 1 つの実数を対応させる関数をよく扱います。

たとえば

f(x,y,z)f(x,y,z)

のような関数です。

このような関数を スカラー場 といいます。

ここで「スカラー」とは、向きを持たないただの数のことです。 したがってスカラー場とは、

  • 各点にベクトルが対応するのではなく
  • 各点に実数が対応する

ような場だと思えばよいです。

たとえば

f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2

なら、原点から遠ざかるほど値が大きくなります。 また

f(x,y,z)=zf(x,y,z)=z

なら、高さそのものを表していると見ることができます。

3.2 偏微分

1 変数関数では、微分は「入力を少し変えたときの変化率」でした。 多変数関数では、どの変数を動かすかを指定しないといけません。

たとえば 2 変数関数

f(x,y)f(x,y)

に対して、xx だけを動かして yy を固定したときの変化率を

fx\frac{\partial f}{\partial x}

と書きます。

同様に、yy だけを動かしたときの変化率を

fy\frac{\partial f}{\partial y}

と書きます。

これが 偏微分 です。

つまり偏微分とは、

他の変数を固定して、1 つの変数だけを動かしたときの変化率

です。

3.3 偏微分の例

たとえば

f(x,y)=x2+3xy+y2f(x,y)=x^2+3xy+y^2

を考えます。

xx で偏微分するときは、yy を定数として扱うので

fx=2x+3y\frac{\partial f}{\partial x}=2x+3y

です。

同様に、yy で偏微分すると

fy=3x+2y\frac{\partial f}{\partial y}=3x+2y

です。

ここで大事なのは、偏微分の結果もまた点 (x,y)(x,y) によって変わる関数になっていることです。 つまり偏微分は、各点での変化率を新しく作っていることになります。

3.4 勾配ベクトル

偏微分をまとめて 1 つのベクトルにしたものが 勾配ベクトル です。

2 変数なら

f=(fxfy)\nabla f= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial f}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial f}{\partial y} \end{pmatrix}

3 変数なら

f=(fxfyfz)\nabla f= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial f}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial f}{\partial y}\\[0.35em] \dfrac{\partial f}{\partial z} \end{pmatrix}

と定めます。

なお、勾配は

gradf\operatorname{grad} f

と書かれることもあります。 これは gradient(グラディエント)grad を使った書き方です。 日本語では 勾配ベクトル と呼ぶのが普通で、意味は f\nabla f と同じです。

ここで

=(xy)\nabla= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y} \end{pmatrix}

あるいは 3 次元では

=(xyz)\nabla= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial z} \end{pmatrix}

という ベクトル演算子 と見ると、f\nabla f がなぜ偏微分を並べた形になるのかが分かりやすくなります。 実際、

f=(xy)f=(fxfy)\nabla f= \begin{pmatrix} \dfrac{\partial}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial}{\partial y} \end{pmatrix} f = \begin{pmatrix} \dfrac{\partial f}{\partial x}\\[0.35em] \dfrac{\partial f}{\partial y} \end{pmatrix}

となるので、grad f は「ベクトル演算子 \nabla を関数 ff に作用させたもの」だと読めます。

これは単に偏微分を並べただけではありません。 勾配ベクトルは、その点で関数が最も急に増える方向を表しています。

したがって、

  • 向きは最も増える方向
  • 大きさはその最大の増え方

を表していると思うとよいです。

3.5 方向微分

偏微分は座標軸方向の変化でしたが、実際には任意の方向の変化を知りたいことが多いです。

そこで、単位ベクトル

u\mathbf{u}

の方向における変化率を考えます。

これを 方向微分 といいます。

方向微分は

Duf=fuD_{\mathbf{u}}f=\nabla f\cdot \mathbf{u}

で与えられます。

これは第 2 回で見た内積の意味とつながっています。 つまり勾配ベクトルのうち、方向 u\mathbf{u} にどれだけ成分を持っているかを取り出しているわけです。

3.6 なぜ勾配が最大増加方向になるのか

方向微分の式

Duf=fuD_{\mathbf{u}}f=\nabla f\cdot \mathbf{u}

に、第 2 回の内積の公式

fu=fucosθ\nabla f\cdot \mathbf{u}=\|\nabla f\|\,\|\mathbf{u}\|\cos\theta

を使います。

ここで u\mathbf{u} は単位ベクトルなので

u=1\|\mathbf{u}\|=1

です。

したがって

Duf=fcosθD_{\mathbf{u}}f=\|\nabla f\|\cos\theta

となります。

この値が最大になるのは

cosθ=1\cos\theta=1

すなわち

θ=0\theta=0

のときです。

つまり方向 u\mathbf{u} が勾配ベクトル f\nabla f と同じ向きのとき、方向微分は最大になります。

したがって勾配ベクトルは、

その点で最も急に増える方向

を表しています。

勾配ベクトル \nabla f と単位ベクトル \mathbf{u} のなす角 \theta、および \mathbf{u} 方向への射影 D_{\mathbf{u}}f を示す図

3.7 等高線との関係

2 変数関数

f(x,y)f(x,y)

では、値が一定の曲線

f(x,y)=cf(x,y)=c

等高線 と見なすことができます。

等高線に沿って動くと、関数の値は変わりません。 つまりその方向の方向微分は 0 です。

方向微分が 0 ということは、その方向ベクトル v\mathbf{v} に対して

fv=0\nabla f\cdot \mathbf{v}=0

です。

したがって、勾配ベクトルは等高線に接する方向と直交します。

つまり勾配ベクトルは、等高線に垂直に交わりながら、高い方へ向くベクトルです。

これは「地形で最も急に登る方向」を考えるとかなり自然です。

3.8 例

関数

f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2

を考えます。

偏微分すると

fx=2x,fy=2y\frac{\partial f}{\partial x}=2x,\quad \frac{\partial f}{\partial y}=2y

なので、

f=(2x2y)\nabla f= \begin{pmatrix} 2x\\[0.35em] 2y \end{pmatrix}

です。

このベクトルは、各点で原点から外向きの方向を向いています。 また大きさは

f=2x2+y2\|\nabla f\|=2\sqrt{x^2+y^2}

なので、原点から離れるほど増えていきます。

したがってこの関数では、原点から外へ向かう方向が最も急に増える方向です。

これは f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2 が原点を底にしたお椀型の形をしていることと一致しています。

4. 例題

例題 1

f(x,y)=x2+xyf(x,y)=x^2+xy

に対して、

fx,fy\frac{\partial f}{\partial x},\quad \frac{\partial f}{\partial y}

を求めよ。

解答

xx で偏微分すると

fx=2x+y\frac{\partial f}{\partial x}=2x+y

です。

yy で偏微分すると

fy=x\frac{\partial f}{\partial y}=x

です。

例題 2

f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2

の勾配ベクトルを求めよ。

解答

偏微分すると

fx=2x,fy=2y\frac{\partial f}{\partial x}=2x,\quad \frac{\partial f}{\partial y}=2y

なので、

f=(2x2y)\nabla f= \begin{pmatrix} 2x\\[0.35em] 2y \end{pmatrix}

です。

例題 3

f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2

に対して、点 (1,2)(1,2) における勾配ベクトルを求めよ。

解答

勾配ベクトルは

f=(2x2y)\nabla f= \begin{pmatrix} 2x\\[0.35em] 2y \end{pmatrix}

なので、(1,2)(1,2) では

f(1,2)=(24)\nabla f(1,2)= \begin{pmatrix} 2\\[0.35em] 4 \end{pmatrix}

です。

5. 練習問題

練習問題 1

f(x,y)=3x22xy+y2f(x,y)=3x^2-2xy+y^2

の偏微分

fx,fy\frac{\partial f}{\partial x},\quad \frac{\partial f}{\partial y}

を求めてください。

解答を見る fx=6x2y,fy=2x+2y\frac{\partial f}{\partial x}=6x-2y,\quad \frac{\partial f}{\partial y}=-2x+2y

です。

練習問題 2

f(x,y)=x2xyf(x,y)=x^2-xy

の勾配ベクトルを求めてください。

解答を見る fx=2xy,fy=x\frac{\partial f}{\partial x}=2x-y,\quad \frac{\partial f}{\partial y}=-x

なので、

f=(2xyx)\nabla f= \begin{pmatrix} 2x-y\\[0.35em] -x \end{pmatrix}

です。

練習問題 3

f(x,y)=x2+y2f(x,y)=x^2+y^2

に対して、点 (1,0)(1,0) における勾配ベクトルを求めてください。

解答を見る f=(2x2y)\nabla f= \begin{pmatrix} 2x\\[0.35em] 2y \end{pmatrix}

なので、

f(1,0)=(20)\nabla f(1,0)= \begin{pmatrix} 2\\[0.35em] 0 \end{pmatrix}

です。

練習問題 4

勾配ベクトルが等高線に垂直になる理由を、方向微分の言葉で説明してください。

解答を見る

等高線に沿って動くと関数の値は変わらないので、その方向の方向微分は 0 です。

したがって、等高線に接する方向ベクトル v\mathbf{v} に対して

fv=0\nabla f\cdot \mathbf{v}=0

が成り立ちます。

つまり勾配ベクトル f\nabla f は、等高線に接する方向と直交するので、等高線に垂直です。

6. まとめ

今回は、多変数関数の変化を偏微分と勾配で見ました。

重要だったのは、

  • スカラー場は各点に実数を対応させる関数である
  • 偏微分は 1 つの変数だけを動かしたときの変化率である
  • 勾配ベクトル f\nabla f は偏微分を並べたものである
  • 勾配ベクトルは gradient とも呼ばれ、gradf\operatorname{grad} f と書くこともある
  • 方向微分は fu\nabla f\cdot \mathbf{u} で表される
  • 勾配ベクトルは最も急に増える方向を向く
  • 勾配ベクトルは等高線に垂直である

という点です。

ここで初めて

\nabla

が本格的に現れました。

次回は、このナブラをさらに使って、

  • ベクトル場
  • 流れ場
  • 力場

を見ていきます。 スカラー場の次は、各点にベクトルが対応する世界へ進みます。

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