第 9 回では、ベクトル場に対して
という 2 つの基本的な量を見ました。
今回はそこから少し見方を変えて、
ベクトル場の中をある道に沿って進むとき、その道に沿ってどれだけベクトル場が効いているか
を調べます。
これが 線積分 です。
1. 今回学ぶこと
この記事では、次の内容を扱います。
- 線積分
- 仕事
- 接線方向成分
- ベクトル場の中での移動
ゴールは
線積分を、道に沿ってベクトル場の接線方向成分を足し合わせる量として読めるようになること
です。
2. 直感的なイメージ
ベクトル場
F
の中を、ある曲線に沿って粒子が動く場面を考えます。
各点ではベクトル場が
- 進む向きを後押しするか
- 逆向きに邪魔するか
- 横向きに効くだけで前進には効かないか
を決めています。
この「進む向きにどれだけ効いているか」を、道に沿って全部足し合わせたものが線積分です。
したがって線積分では、ベクトル場の大きさをそのまま足すのではなく、
道の接線方向にどれだけ成分を持っているか
を見ることになります。
3. 基本事項
3.1 線積分とは何か
ベクトル場
F
と曲線
C
に対して、線積分を
∫CF⋅dr
と書きます。
ここで
dr
は、曲線に沿った微小な移動を表しています。
したがって
F⋅dr
は、その小さな移動に対してベクトル場がどれだけ進む向きに効いているかを表します。
それを曲線全体にわたって足し合わせるのが線積分です。
3.2 なぜ内積が出てくるのか
第 2 回で、内積
a⋅b
は
一方のベクトルが、もう一方の向きにどれだけ成分を持つか
を測る量だと見ました。
線積分でも全く同じです。
動く向きは曲線の接線方向なので、ベクトル場 F のうち、その方向に沿う成分だけが移動に効きます。
だから
F⋅dr
という内積が自然に現れます。
もしベクトル場が移動方向と直交していれば、その点での寄与は 0 です。
3.3 仕事との関係
線積分の最も典型的な意味は 仕事 です。
力場
F
の中で物体を曲線 C に沿って動かしたとき、力がした仕事は
∫CF⋅dr
で与えられます。
つまり線積分は、
- 力が移動を助ければ正
- 逆らえば負
- 横向きにしか働かなければ 0
になる量です。
この見方を持つと、式の意味がかなり分かりやすくなります。
3.4 パラメータ表示での計算
曲線 C が
r(t)=(x(t)y(t))(a≤t≤b)
のように表されているとします。
このとき
dr=r′(t)dt
なので、線積分は
∫CF⋅dr=∫abF(r(t))⋅r′(t)dt
と書けます。
これが実際の計算で最もよく使う形です。
つまり手順としては、
- 曲線をパラメータ表示する
- ベクトル場にその曲線を代入する
- 接ベクトル r′(t) と内積をとる
- t で積分する
となります。
たとえば
F(x,y)=(xy),r(t)=(t2t)(0≤t≤1)

なら、
F(r(t))=(t2t),r′(t)=(12)
です。
したがって被積分関数は
F(r(t))⋅r′(t)=(t2t)⋅(12)=t+4t=5t
となり、
∫CF⋅dr=∫015tdt
と、ふつうの 1 変数積分に直ります。
つまり線積分の計算は、
- 曲線に沿ってベクトル場を引き戻す
- 接ベクトルと内積をとる
- 最後に 1 変数積分にする
という流れだと思えばよいです。
3.5 例 1: 一定ベクトル場
たとえば
F(x,y)=(10)
を考えます。
これは常に右向きの一定ベクトル場です。
どの点に行っても、矢印は同じ長さで右を向きます。
つまり平面全体に、そろった右向きの風が吹いているような場です。
ここで、原点から (a,b) まで直線的に動くとします。
このとき、右向き成分だけが仕事に効くので、線積分の値は「どれだけ右へ進んだか」に対応します。
つまりこの場では、上に進んでもほとんど効かず、右へ進むほど値が大きくなります。
このことからも、線積分が「接線方向成分の総和」だと分かります。
3.6 例 2: 円周に沿う回転場
次に
F(x,y)=(−yx)
を考えます。
これは原点のまわりを回るベクトル場でした。
各点の矢印は、その点を通る円の接線方向を向きます。
したがって、全体としては原点のまわりを反時計回りに回る流れとして読めます。
もし単位円
r(t)=(costsint)(0≤t≤2π)
に沿って反時計回りに進むと、
r′(t)=(−sintcost)
です。
一方、
F(r(t))=(−sintcost)
となるので、ベクトル場はちょうど進行方向と一致します。
したがって内積は常に正で、線積分は大きな正の値になります。
つまりこの場では、円周に沿って進むとずっと後押しされることになります。
3.7 スカラー場の線積分との違い
線積分には、スカラー場に対するものもあります。
たとえば
∫Cfds
のような形です。
これは曲線上でスカラー量を長さに沿って足し合わせるものです。
一方、今回扱っている
∫CF⋅dr
は、ベクトル場の接線方向成分を足し合わせています。
つまり、
- スカラー場の線積分は「曲線上の量の総和」
- ベクトル場の線積分は「進行方向に効く成分の総和」
です。
3.8 向きを反対にすると符号が変わる
線積分では曲線の 向き が重要です。
同じ道でも、逆向きに進めば
dr
の向きが反対になるので、
∫CF⋅dr
の符号は反転します。
これは仕事のイメージからも自然です。
追い風の中を進めば正の仕事ですが、同じ道を逆向きに進めば向かい風になって負の仕事になることがあります。
4. 例題
例題 1
ベクトル場
F(x,y)=(10)
の中で、曲線
r(t)=(t0)(0≤t≤2)
に沿う線積分を求めよ。
解答
r′(t)=(10)
であり、
F(r(t))=(10)
です。
したがって
F(r(t))⋅r′(t)=1
なので
∫CF⋅dr=∫021dt=2
です。
例題 2
ベクトル場
F(x,y)=(01)
の中で、例題 1 と同じ曲線に沿う線積分を求めよ。
解答
進行方向は x 軸方向ですが、ベクトル場は上向きです。
したがって直交しているので
F(r(t))⋅r′(t)=0
です。
よって
∫CF⋅dr=0
です。
例題 3
ベクトル場
F(x,y)=(−yx)
の中で、単位円
r(t)=(costsint)(0≤t≤2π)
に沿う線積分を求めよ。
解答
r′(t)=(−sintcost)
であり、
F(r(t))=(−sintcost)
です。
したがって
F(r(t))⋅r′(t)=sin2t+cos2t=1
なので
∫CF⋅dr=∫02π1dt=2π
です。
5. 練習問題
練習問題 1
ベクトル場
F(x,y)=(20)
の中で、
r(t)=(t0)(0≤t≤3)
に沿う線積分を求めてください。
解答を見る
r′(t)=(10)
であり、
F(r(t))=(20)
なので
F(r(t))⋅r′(t)=2
です。
したがって
∫CF⋅dr=∫032dt=6
です。
練習問題 2
ベクトル場
F(x,y)=(01)
の中で、
r(t)=(t0)(0≤t≤1)
に沿う線積分を求めてください。
解答を見る
進行方向は右向き、ベクトル場は上向きなので直交します。
したがって
F(r(t))⋅r′(t)=0
です。
よって
∫CF⋅dr=0
です。
練習問題 3
ベクトル場
F(x,y)=(xy)
の中で、
r(t)=(tt)(0≤t≤1)
に沿う線積分を求めてください。
解答を見る
r′(t)=(11)
であり、
F(r(t))=(tt)
です。
したがって
F(r(t))⋅r′(t)=2t
なので
∫CF⋅dr=∫012tdt=1
です。
練習問題 4
線積分で向きを反対にすると、なぜ符号が変わるのか説明してください。
解答を見る
向きを反対にすると、曲線に沿った微小移動
dr
の向きが反対になります。
そのため
F⋅dr
の符号が反転し、全体の積分値も反対符号になります。
6. まとめ
今回は、ベクトル場を道に沿って足し合わせる 線積分 を見ました。
重要だったのは、
- 線積分は ∫CF⋅dr と書く
- 見ているのはベクトル場そのものではなく、道の接線方向成分である
- 内積が出るのは、進行方向にどれだけ効いているかを測るためである
- 線積分は力場では仕事を表す
- 計算では ∫abF(r(t))⋅r′(t)dt の形に直す
- 同じ道でも向きを反対にすると符号が変わる
という点です。
ここまでで、ベクトル場に対して
という基本的な見方がそろってきました。
次回は、曲面に対してベクトル場がどれだけ突き抜けるかを測る 面積分 に進みます。